ユ-ソニアン住宅とは 

 フランク・ロイド・ライト(1867〜1959)は、20世紀を代表する米国の建築家です。ライトのFalling Water(落水荘1936)以後の後期の住宅は、前期のプレーリー住宅(草原住宅)と区別してユソニアン住宅と総称されますが、その中でも特に、ライトは新しい手法によって造った一般的な家族のための手ごろな価格のコンパクトで魅力に満ちた小住宅郡をユソニアンハウスと名づけています。1936〜1943年にLusk邸(1936)で計画され、Jacobs邸(1937)で初めて実現し、58が建築されました。
 それぞれの家は敷地の性質と施主の要求にあわせて設計されましたが、共通のディテールと工法、次に述べる特徴が繰り返し用いられていて、それはもっと予算をかけた特別な住宅にも共通しています。ライトはこれをGrammar(文法)と呼びました。
 ユソニアンハウスは革新的な工法であったため、多くの家は、ライトの3年目以上の弟子がタリアセン(アリゾナとウィスコンシンにあるライトの工房)から派遣され現場に常駐して施主の直営方式として建てられるか、またはユソニアンハウスの建築に慣れたハロルド・ターナーらのマスタービルダーにより建てられました。
 箱型の慣習的な住宅の工法にとらわれず、自由に造られたこれらの住宅は建てられてから半世紀以上の時間を経た現在もなお魅力に満ちています。ユソニアン住宅は、いまだに一般には実現していない未来に属する究極の住宅と言えるでしょう。

                                         Dyer House Project by Taliesin Architects based on FLLW Garrison House  Rendering
by Yukie Isoya 

 

  ユーソニアン住宅の特徴

1.流動する空間

 各部屋は間仕切りや扉ができる限り取り払われ、流れるように連続しています。動きの自由があり、それと同時にプライバシーが保たれるように細かい工夫が施されています。天井の高さの変化や視界の工夫により、実際より大きく解放的に感じられます。
 
大きなガラス面を持つ吹抜けや、解放的な階段によって、空間は縦方向にも広がりを持っています。ドラマチックで優美な家であり、自由で伸びやかな空間です。


2.室内と外部の連続

大地に接した生活

 リビングやダイニングなどの主要なスペースは、できる限り庭に接するようにします。様々な工夫を行うことによりこの庭をできるだけ大きくとります。
 室内と庭のつながりがよくできていて、室内から見ると庭も室内の一部のように感じられます。庭に出てみると室内が庭の一部のように感じられます。
 自由で実際よりもはるかに広く感じます。同じ面積の普通の家に比べると2倍にも感じるでしょう。

 


オープンプランと作りつけ家具

  オープンプランのリビング。ダイニングとキッチンはリビングの一部とするか、あるいは隣接しています。

1. 家の中心には家族の集まる大きな暖炉があります。

2. 木の壁とオープンの棚が装飾になっています。

3. 造り付けのソファとキャビネット、ダイニングテーブルや椅子は家に合わせて家と一体の物として作られています。

4. リビング、ダイニングなどの家族みなで使う部分に繋がるようにコンパクトなベッドルームとバスルームが一列に並べられます。全ての部屋が庭(2階の場合はテラス)に面しています。

5. 庭は室内の一部のように感じられます。

6. 庭側の大きな窓から入る熱によって加熱された室内の空気は吹き抜けに沿って上昇し、北側の階段などを通って下降して大循環します。 

 パースや写真は磯矢建築事務所の実施例の中からとったものです。

 

3.材料の性質を活かして正直に用いる。自然材料を多用する。
  
(Nature of Material、Material for its own sake) 

木、石
 木はぬくもりがあり手触りが良くて、人にやさしく親しみやすい素材です。一方、石は自然の表情を与えるものです。自然の材料は年月とともに味わいが増し、またメンテナンスを殆ど必要としません。
 人の触れる部分には、木を多用します。木は塗装せず、木が本来持つ肌触りの良さを活かすようなワックスや自然素材の木材保護油を塗るだけにします。
 

コンクリート、レンガ、鋼鉄、ガラス 
 それぞれの素材が持っている性質や人に与える感じをよく理解して、素材そのものの魅力を活かすように正直に使います。材料の表面に何かを貼ったりペンキを塗るなどの手を加えません。
                                

 

 

    
 
様々な窓(スカイライト、パーフォレーテッドボード(デザインされた穴開き高 窓)等)から入る光が影をつくり、それが時間と共に姿を変える。

 

4.人間の尺度から決められたプロポーション 

建物の各部の寸法は慣習的な寸法にとらわれず、人の寸法と動作や感覚をもとによく考えられて決められています。 動きやすく心地よく作られています。       (Human Scale)

5.統一されたデザイン

 有機的建築 (Organic architecture)

 自然界にみられる植物や動物の形は、生物が種として生き延び繁栄するための構造や仕組みです。
 野に咲く花にはその花を構成する部分に無駄のない単純な美しさがあります。それはその花が風雨に耐え、種を保存するという生命の最も根本的な目的のために生まれた形であり、そこには機能とデザインの一致した美しさがあります。
 このような生物の成り立ちと同じ原理で造ろうとするのがライトの提唱した有機的建築(Organic Architecture)の考え方です。建物のあらゆる部分が全体と関連してデザインされ統一感をもっています。建物全体が一つの生命体のように機能を持ち精神を持っています。
 1.2mのモデュール(基準寸法)に基づいて作られた設計は、建物に規則的なリズムを与えています。  
 各部分のデザイン(窓、階段、造り付け家具、造り付け照明器具など)に、建物全体の形や性質から抽出した形状を用いており、建物と一体感を持った穏やかな秩序が感じられます。

 建物全体が機能とデザインを兼ね備えたあたかも一つの家具のようなものになっています。

照明は、棚に造り付けた穴明き板の壁灯、木枠のダウンライト、庇上の間接照明等の建築化照明を行い、ダイニングテーブルのペンダントライト以外は既製品を用いません。

ダイニング

1. パーフォレーテッドボード(家ごとにデザインされる穴明き窓)の高窓    
2. オープンの棚と、棚に造られた照明器具
3. 造りつけのソファ
4. 家に合わせてデザインされたダイニングのテーブルといす

 

テラス  

 2、3階は、窓の外がいきなり外部ではなく外部とのつながりは必ずテラスを介します。

屋上のテラス  

 高いパラペットに囲まれて空と遠くの地平線だけが望め、外からのぞかれることがないプライベートな場所となっています。都会に住んでいることを忘れさせます。

 

6.快適な室内環境

 冬にはコンクリート床に埋められた温水パイプにより全室が床暖房されています。 大きなガラス面からの太陽熱が1階のコンクリート土間床に蓄熱されます。 
 南側の吹き抜けの大きなガラス面で暖められた空気は窓に沿って上昇、2階屋の場合は北側の階段等を通って下降し、仕切りの少ない家の中を自然に大循環します。全室ともほとんど温度差のない快適な環境となります。

 夏はコンクリート土間床の蓄冷によりひんやりと涼しく、高い陽ざしは深く張り出した軒と庭の樹木により遮られます。              

 

床暖房とパッシブソーラーによる結露のない健康な家 

 2階の床暖房配管もフローリング下の3cm厚のコンクリート層に埋められて蓄熱されます。(写真)

換気と冷房は建物の形状そのものと開口を工夫した空気の自然対流(大循環)と、キッチンやバスルームの換気扇による排気を利用します。
 各開口には不快なすきま風を防ぐ程度のパッキンが取り付けられています。 
(ダクトによる機械換気に頼った過度な気密化は危険で、温帯に住む我々には行き過ぎたことと考えます。)
 有害な化学物質を放出する建材の使用を極力廃し、安全な自然の材料を用います。

 

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